
皮膚科医の本音
ここには、私が感じた事を随筆風に書いていきます。
美容についての考え(レーザー導入秘話)
平成16年12月19日
近年はいわゆる「美白」がブームで、特に女性の「美容」に対する関心が深まり、ニーズも多様化している。これを反映して、皮膚科の開業医院でも、最近ではレーザー機器や光治療機器を多く取り入れ、シミや血管拡張の治療を行うところが多くなってきた。しかしこれらは自費診療であり、患者さんは1回の治療費に数千円から数万円を支払わなければならない。一方、医院の経営という点からみれば、不景気や長期投与による収入減を、美容機器を置き、自費診療を行うことによってカバーするという戦略もやむを得ない。しかし、最近聞いた話だが、皮膚科や形成外科のトレーニングを受けていない医師が、患者さん集めと収益のためにレーザーなどの「美容」の治療を始めているケースがあるとのことである。
今まで、私は、美容に関しては消極的であった。まず、患者さんから何万円もいただく、ということに慣れていない。また、大学では形成外科が熱心に美容をやっていたので、ほとんどの場合はお願いするだけであった。しかし、開業してみると、全身の乾癬を苦にして来院される患者さんの悩みと、顔の小さなシミをよくしたいために来院される患者さんの悩みは、基本的には同じであり、とても「心配ないから、ほうっておきなさい」とはいえないという認識がここ数年で芽生えてきた。
皮膚科は「皮膚の専門家」である。皮膚の色の観察や、盛り上がった「できもの」の診断は得意である。したがって、皮膚を診るトレーニングを受けいてない医者が美容をやっているなら、われわれ皮膚科医が美容にたずさわった方が、患者さんに迷惑をかけることが少ないであろう。ということで、当院もいよいよ、光・レーザー機器を購入した。数千万の器械なので、もちろん借金である。正直なところ、数年にわたり、月々数十万を返済していかなければならず、自費診療はやむを得ないが、シミ、血管拡張の他にも、除毛、ニキビ、乾癬、白斑にも有効であるということで、大いに活用していきたいと考えている。2月には本格的に始動する予定ですので、こうご期待。
「全然なおんない」は言わない約束で
平成16年5月8日
医者はサービス業である。患者さんを叱ってはいけない。しかし、医者も人間である。悲しければ泣くし、腹が立ったら怒る。私には、患者さんに言ってほしくない言葉がある。それが、「全然なおんない」である。特に、ずーと通院して下さっている方ならともかく、何ヶ月ぶりかで来て、とてもこちらの指導の通り治療をしているとは思えない患者さんにこれを言われると、Back to the Futureのマーティー・マクフライが「腰抜け(a chicken)」と言われた時と一緒で、ついカッとしてしまう悪い癖がある。医者と患者は仲良く、楽しい関係でないといけない。当院に来て下さる患者さんは、診たて違いで、良くならないときも、「全然なおんない」は言わない約束で、「あまり良くなりません」にして下さい。
電子カルテ雑感
平成16年2月11日
医師会で情報システムの仕事に携わり、私自身が医療のIT化の向上を計る立場にある関係で、日本医師会が推進しているORCAと呼ばれるレセコンシステムと、それと連動する電子カルテRACCOを、2月の最初から当院に導入した。医療のIT化は、政府主導で行われている、国民へのサービス向上を目的とした施策の1つであり、病院内の診療録のみならず、今後は診断書、紹介状、処方箋などの外部へ向けた医療情報の電子化へと発展していく事が決定している。処方箋が電子メールで薬局に届けば、薬局での待ち時間も減ることになる。紹介状もすぐさま紹介先のドクターに届けることが可能になる。電子カルテは、医療情報の開示、医療情報の医師-患者の共有にも力を発揮する。また、ORCAも着々と進化を遂げ、会計窓口でのJ-Debit決済がすでに試験運用されている。
ということで、堅い話になってしまいました。とにかく、こう説明されると、いいことばかりのように思えますよね。ところが、実際は、、大変です。特に導入直後だからだと思いますが、いいことばかりではありません。まず、今までの診療内容を電子カルテだけを見てわかるようにするための入力に時間がかってしまう。だから、普段はすいているシーズンなのに、ずいぶん患者さんを待たせしてしまっていて、心苦しく思いながら診療しないといけない。その日の診療が終わる時間も遅くなるので、従業員や薬局にも迷惑をかける。往診先へは持って行けないので、紙カルテの記載と電子カルテの入力を平行してやらないとダメで、手間がかかる。ついついディスプレイの方に目がいってしまうので、面と向かって患者さんに接することが少なくなって、何となくよそよそしい。さらに、今のところ入力がキーボード主体なので、午後の終わりの方になると、指がもつれ、肩が凝って、もうへとへと。
先日、長い時間お待たせしてしまった、初診の患者さんに、「遅くなっちゃって、本当にすみません。」と言ったら、「いいえ。先生もがんばって下さい。」と言われました。もう、涙が出そうになりました。とにかく、当院へ来て下さる患者さんは、みなさんいい方ばかりで、ホントに助かっています。たぶん、この町に住んでいる方々が、みんなやさしい方なんだと思います。ちなみに、私もここで育ちました。
あと数ヶ月もすれば、システムにもなれ、入力済みの項目も多くなり、今よりずっと早くなると思います。当院の心優しい、患者さんたち。もうしばらく、がまんして下さい。